top of page

通信教育課程のこれから

 

應義塾大学通信教育部長

大屋雄裕

 

 神奈川通信三田会の会報『日吉の杜』が創刊50年目・50号を迎えられるとのこと、おめでとうございます。多くの塾生・塾員が歴史を引き継ぎ努力を重ねてきた結晶であり、慶應義塾と通信教育課程の伝統を示すものだと思います。

 さて、しかし伝統とは同じことを繰り返しやり続けるだけで維持できるものではなく、外的な環境の変化に応じて自己変革を続ける必要があるでしょう。大学の通信教育全体の目的も、働きながら高等教育を受ける機会を提供することに主眼があった戦後の状況から、生涯学習・リカレント教育などの需要に応たり、病気や障害を含めたさまざまな事情で定期的にキャンパスに通うことが難しい人々を包摂するといったように多様化するようになっています。それぞれの人に適した学びの形を用意することで社会全体におけるdiversity and inclusion(多様性と包摂)に寄与することが求められていると言えるでしょう。

 特に、職業に就いたあとの学び直しを通じて能力の賦活を図るリカレント教育は、人生百年時代と言われるように長年にわたって職業人としての現役を保ち続けることが求められるようになった現代において、重要な意味を持つでしょう。その観点から見た場合、従来の通信教育課程には包括的なカリキュラムでありすぎるという問題が、あるいはあったかもしれません。学士課程でも2年間をかけてある領域・分野を体系的に学ぶことが求められており、たとえば経済学部の出身者が法学を勉強するといったような需要には対応しているものの、最新の経済事情を知りたいという場合には過大になってしまいます。科目等履修生制度には、そのような必要に対応した多様な機会を提供したいという狙いが籠められています。

 今後は国際化をさらに進めることも課題となっています。現状では科目試験を国内で受ける必要がある点が制約となっていますが、在外日本人だけでなく将来日本で学ぶことを考えている外国人学生に新たな入口を提供することも目的として、取り組みを進めていきたいと考えています。

 通信教育課程も今年、75周年を迎えます。神奈川通信三田会とともに、さらに未来に向けてその成果を示すことができるよう努力したいと思います。塾生・塾員諸君のご協力にも期待しています。

塾長祝辞

神奈川通信三田会創立50周年祝辞

 

慶應義塾長

伊藤公平

 

 神奈川通信三田会が創立50周年を迎えられましたこと、誠におめでとうございます。これまで守り育ててこられた、歴代の会長をはじめとする会員の皆さまのご尽力に敬意を表するとともに、心からお祝い申し上げます。

 1971年に創立された際には8名のメンバーでしたが、全国の通信三田会の活動をけん引し、現在は300名を超すメンバーが活発に交流なさっているとのこと、まさに社中協力が体現されていると大変喜ばしく思っております。

 慶應義塾は創立以来、学問を修め、経済的に自立し、流行に惑わされずに、世の中の進むべき方向を考えることのできる独立自尊の人材を社会のあらゆる分野に送り出してきました。グローバル化の中で、義塾は研究力の向上、国際化の推進を中心に、これまでの伝統を守りつつ、さらなる進化をめざしています。また、多様な学びによって多様な人材を育てるという使命も変わることはありません。優れた教育は優れた研究に支えられてこそ可能であり、優れた研究にはまた優れた人材が必要です。

 2021年5月28日に塾長に就任してからのこれまでの間、常任理事・教職員・塾員の皆様のご協力をいただきながら、新型コロナウイルス感染症から塾生のキャンパスライフを取り戻すため、全キャンパスにおける授業・研究・課外活動の活性化に奔走してまいりました。ポストコロナの新しいキャンパスライフを作り出すことにより、塾生に「慶應義塾大学を選んで本当によかった」と感じてもらい、生涯の友情を育んでもらいたいと願っています。

 慶應義塾には創立者・福澤諭吉による目的があります。その文章は「以て全社会の先導者たらんことを欲するものなり」で結ばれています。全社会の先導者になるためには世界の舞台に立ち、自分や日本が置かれた現状を理解し、自分のため、家族や仲間のため、地域のため、国のため、世界のために為すべきことを定義して実行する必要があります。

 慶應義塾とは、この目的を達成するための塾生と教職員と塾員の集まりです。塾員の皆様は、様々な立場で社会を先導しており、三田会をはじめとするそのネットワークは極めて強固で世界中に広がっています。塾生は、在学中はもちろんのこと、卒業後も生涯を通じて、塾員のネットワークから多くのチャンスや出会いに恵まれます。

 慶應義塾が、社会の先導者として新たな飛躍を遂げるためにも皆様のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

神奈川通信三田会が設立50周年を機に、会員相互の絆をさらに深め、発展されることを祈念申し上げてお祝いの挨拶とさせていただきます。

通信教育部長祝辞

 

應義塾大学通信教育部長

大屋雄裕

 

 このたび神奈川通信三田会が創立50周年を迎えられたとのこと、心よりお慶びを申し上げます。私自身も慶應義塾に奉職したときから横浜市に住んでおり、横浜慶友会には(残念ながらコロナ禍のためオンラインではありましたが)講師派遣でお話をさせていただいたこともあります。さまざまなご縁から、勝手ながら個人的に親しみを感じている三田会でもありますので、そのご隆盛についてひときわ嬉しく思っております。

 さきほども言及したコロナ禍のため、我が国のみならず世界中で学びをめぐる環境は急速に変化しました。対面による接触を避けるために利活用を強いられる形になったウェブ会議などのデジタル技術ですが、他方では半強制的に人々が使い始めたことによってそのメリットが広く知られるようにもなり、我々の行動様式を大きく変える結果ももたらしています。

 たとえば研究者の視点に立つと、これまで海外の研究者と交流したり共同研究を行なうためには直接相手を訪問することが一般的で、特に欧米のように飛行機でも片道半日以上を要する地域との交流は、旅行日程を確保する観点から、長期休暇の期間にしかできないのが普通でした。ところがウェブ会議を使うと(時差には配慮する必要があるものの)月一回あるいはそれ以上の頻度で定期的にミーティングを行なうとか、日米の各地に散らばった研究者を集めてワークショップで議論するとか、日米欧の三極で国際シンポジウムを開催するといったことが容易にできるようになりました。そうなってみると、かつては実際に訪問するのが普通であり、たとえば電話で済ませる場合にはそれ相応の理由を説明する必要があったものが、ウェブ会議では不十分な理由、わざわざ交通費をかけて訪問しなければならない事情がなければ出張が認められないようになっていくでしょう。コロナ禍はその意味で、社会の通常のあり方(デフォルト)を揺るがせてしまいました。

 このような変化は、大学通信教育のあり方にも影響を及ぼさずにはいないでしょう。コロナ禍の前から導入を進めてきたメディア授業も多くの学生に受け入れられてきましたが、さらに卒業論文指導や卒業試験もオンライン対応が進み、特に地方に居住している学生からは歓迎されています。その一方、これまで慶應通信教育が掲げてきた対面での人間的交流を重視するという方針をどのような形で維持することができるかが問われているとも言えるでしょう。

 そのような状況において、地域に基礎を置いて親睦を深め、塾生塾員のあいだでのより親密な人間関係を維持し深めることのできる各地域の三田会には、独自の大きな価値が生まれているということにもなるはずです。神奈川通信三田会がそのような人間交際の基盤として今後ますますの発展を遂げられることを祈念して、お祝いの言葉とさせていただきます。

連合三田会会長祝辞

 

慶應連合三田会会長

菅沼安嬉子

 

 

神奈川通信三田会創立50周年に寄せて

 この度は慶應義塾神奈川通信三田会創立50周年と「創立50周年記念誌」発行おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。

 1971年11月に8名の会員から発足したそうですが、2022年には301名まで会員を増やされ、活発な活動をしておられるとお聞きしました。誠に素晴らしいこととお慶び申し上げます。

 私は以前、通信三田会で講演させていただきました。主に生活習慣病に関するお話をしましたが、その年の連合三田会大会で会務委員として見回っていた時、通信三田会ののぼり旗を見つけてお邪魔しましたら、「皆、ミニ菅沼先生になって講義しあっているのですよ」と言ってくれてすごく嬉しかったのを覚えています。吉浜健二会長とはその時からのお付き合いです。もう7年近く経ちます。そしてずっと通信三田会を応援しています。

 実は私も通信教育を受けた身でして、慶應ではないのですが40歳代の時に日本女子大の通信教育で、中高の保健教員免許を取りました。

 慶應義塾女子高等学校の保健の授業を担当して欲しいとの要請があり、はじめは慶應義塾が当時の文部省(現文科省)に特例で教える許可を受けたそうですが、教えるうちにとても楽しくて教員免許を取りたいと思うようになりました。医師として診療の傍らですから、皆様もお仕事をされながらだったと思いますが、それは大変でした。診療、授業、通信(内容はほぼ医学のことだったのですが)で寝る間も惜しんでやりました。「2年で取れますよ」と言われましたけど4年かかりました。

 大学も勉強熱心の学生は沢山いますが、通信の方々は本当に勉強の必要性を痛感して学ばれた方々ばかりだと思いますし、私もそうでしたので通信三田会を強く応援していることがお分かりいただけるかと思います。

 その後、通信の卒業時に使った教科書があまりに時代遅れだったので、全部書き直してもらいました。当時の通信教育学部長は年配の物理学教授でした。談判に3時間かかりましたが、「医学の進歩は日進月歩で、肝硬変の治療は、低蛋白、低栄養だったのが、いまは高蛋白、高栄養(今はカロリーは押さえていますが)です」と申し上げたら、理解してくださり、150ページの小児科の教科書が350ページになったほどです。ただ、他大学卒の人からの提案を受けて教科書を改定することは大学としてメンツにかかわることなのでなかなか出来ることではなく、日本女子大を尊敬しています。

 連合三田会は2020年コロナでの大会中止を経て、2021年オンライン大会のために「デジミタ」コンテンツを作りました。今年からはそれを利用した塾員サービスの一環として、慶應義塾大学の教授たちの講演を『連合三田会学びのWEBセミナー』として配信し始めました。第1回は5月14日でしたが、春、秋、冬と年3回、理系、文系、その他の様々な内容での勉強ができますので、是非ご視聴ください。

 私も生涯にわたって勉学をしたいと思っています。通信三田会の皆様もご一緒に勉強いたしましょう。皆様のご健勝と、神奈川通信三田会の益々のご発展を祈念いたしましてお祝いの言葉とさせていただきます。

全国三田会会長祝辞

全国通信三田会会長

茨城通信三田会会長

山岡恒夫

 

 

神奈川通信三田会創立50周年に寄せて

 神奈川通信三田会の創立50周年を心からお祝い申し上げます。すばらしい活動を続けてこられた神奈川通信三田会の皆様に、敬意を表しますとともに感謝を申し上げます。

 1948年に慶應義塾大学に通信教育課程が開設され、1952年に34名が初めて卒業されて以来70年間で卒業者の累計は16,485人になりました。連合三田会の中でも全国通信三田会は構成人員では、最大のものとなっております。この間の歩みは、決して平坦なものではありませんでした。それを乗り越えることができたのは、大学の地元でもある神奈川通信三田会の皆様のご支援ご協力のお蔭です。深くお礼を申し上げます。

 加納時男前全国通信三田会会長が、まだ神奈川通信三田会で活躍されていた頃に、①集まった人、②集まった人たちの知恵、③集まったお金で、細々とでもよい無理せず末永く活動を続けていくことが大切と、熱弁を振るわれていたのを思い出します。通信課程卒業の塾員は、年齢、経歴、人生経験の多寡など多種多様な人々の集まりです。その多様性を一つに形作ろうとするわけだから、無理をせず、わずかな接点でも大切にする。「多様性の統合」という言葉を使っておられました。

その方針に基づいて活動を続けてきた成果として、創立25周年の時に、松田信俊名誉会長は、①続けた会報の発行、②月例定例会の開催、③会員名簿を大切に、の三点をあげておられました。

 神奈川通信三田会は、全国の地域通信三田会活動の先導者であり、その見事な運営は各地域三田会の目標でもあります。

1879年1月25日、新年の始業式にあたって、福澤先生は学生一同を「演説館」に集め、慶應創立以来の歴史から初めて「社中協力」の精神について演説を行い、その後に教員先輩を交えて盛大な宴会を開催しました。これを三田会の一つのルーツとして考えることができます。

 当時は、西南戦争によるインフレによって、士族が大きな打撃を被り、慶應の入学者が激減して、財政的な危機に直面していました。福澤先生としては、その危機を乗り越えるために社中の結束を図らなければならなかったのです。

 1880年5月29日には湯島昇平館で同窓会が開かれ、およそ300名の参会者があり、『慶應義塾百年史』は、この集まりから慶應の同窓会がはじまったとしています。それに従うならば、慶應の同窓会は1880年に発足し、2020年で140周年を迎えたことになるわけです。
 福澤先生は、慶應義塾同窓生の集まりを大切にされ、各地で開かれるさまざまの同窓会には進んで出席し、社中の交流を奨励しておられました。大正時代に「同窓会」の呼称が「三田会」に置き換えられ、昭和になって、「連合三田会」の名称のもとに集まり、現在に至っております。

 連合三田会の案内には、「慶應に入学して良かったと思うのは、大学を卒業してから」と記されています。実感されている方も多いと思います。慶應に入学する学生は、慶應大学に学ぶために入ってくるのではなく、将来三田会の会員になる資格を得るために慶應大学に進学するのかもしれない。重要なのは、大学そのものではなく、同窓会の組織なのであるかもしれない。などと他大学関係者から誤解されるほど、三田会はうらやましがられる存在になっております。

 三田会は慶應義塾に学んだ者の楽しい同窓会ですので、独立自尊の精神で、参加した仲間の出会い、ふれあい、感動から元気を得て、家庭や社会でより価値のある生活を送ることができたら素晴しい事だと思います。

 私たちは、節目ごとに記念の行事を行います。改まった場を作り、改まった挨拶を交わし、改まった気持ちで、未来への計画を立て、実現への努力を誓い合う。「節目」をつける文化であります。

元通信教育部長の小谷津孝明先生が、昭和61年1月の「慶應通信」に年頭所感として、「節目の文化」は私たちの祖先が作り出した大いなる遺産ということができる、と書かれておりました。私たちは「節目の時」に私たち自身、および私たちの社会に、私たちにとって最も必要な力、つまり生命力を、私たち自身で吹き込むことができ、そうすることによって、更に発展していくことができるという考え方です。

神奈川通信三田会が創立50周年を節目として、ますますご発展しますことをお祈りいたしまして、お祝いの言葉といたします。

bottom of page